1994年、私は、ある業界トップの会社を訪問しました。工場内には、数百台の機械、数百人の人員、数千種類の金型、冶工具があり、工場には、マーケットから毎月数千のオーダが入ってきます。工場は、オーダの品目、数量、納期に従って、極力ジャストインタイムに製品を生産することが求められます。この要求をより効率的にこなすために生産スケジュールの作成が必要となります。製品数・製品バリエーションは増加の一途です。ロットサイズは小さくなり、オーダ数量10000個の大ロットサイズのオーダもあれば、オーダ数量1個の小ロットサイズのオーダもあり、それらが混在して流れます。その上、顧客からの短納期要求は増すばかりで、生産スケジュールはますます複雑になってきます。

当時この工場は、生産スケジューリングを人間の頭脳によって作成していました。人間が生産スケジュールを作成するため、生産スケジュール作成担当者を「人間生産スケジューラ」と呼ぶことにします。人間生産スケジューラは土日出勤して月曜日からの生産スケジュールを立て、月曜日から金曜日は生産管理業務に携わっているため休日がありません。人間生産スケジューラは、結婚しても新婚旅行にはいけないという話もあるくらいです。

その人間生産スケジューラに必要とされていたのは、KKD(経験と勘と度胸)です。人間生産スケジューラは10年20年という経験の中で工場が生産する数千という製品の生産のしかたを頭の中に詰め込んできたのです。そして、製品がジャストインタイムに工場から出荷されるように、KKDを働かせます。生産スケジュールの判断にはスピードが要求されます。すばやく判断しないとオーダ納期は見る見る近づき、ジャストインタイムどころか納期遅れを起こします。このように、人間生産スケジューラには、即座な判断が要求されるため、経験と勘に加えて度胸が必要だったのです。