ちょうど2000年前後、日本ではSCMブームともいえる時期がありました。鳴り物入りで海外からSCMシステムが持ち込まれ、これを導入すればSCMが完成するかのような幻想がありました。当時多くの企業が数億円もかけて導入したSCMシステムは、今その多くが廃棄の憂き目にあっています。海外のモノマネで、業務設計をきちんとしない大掛かりな自動最適化システムのSCM構築は成功しなかったのです。 実際、もしこのときSCMが完成していたら、リーマンショック後の対応もだいぶ違ったものになったことでしょう。リーマンショックに端を発するその後の世界同時不況によって、製造業は大きな痛手をこうむりました。しかし、不思議なことがあります。リーマンショックは2008年9月に起きましたが、その後の製造業の在庫の積みあがりのピークは2008年年末から2009年の年始にかけてであり、その結果工場の操業停止が行われた多くが2009年に入ってからなのです。 いったいこの間、日本の製造業は何をしていたのでしょうか?もし、SCMが完成していたのなら、なぜ、リーマンショック後の販売の落ち込み、海外販社を中心とした流通在庫の積み上がりを看過し、リーマンショック後数ヶ月に渡って生産を続けたのでしょう。 さらに言えば、私は当時いくつかの製造業のSCM構築プロジェクトに関わっていましたが、実はリーマンショック以前から販売鈍化を把握しているメーカーもありました。さかのぼること、1年前のパリバショックから欧州の売上が鈍化していることに気付いたメーカーもあったのです。しかし、対策はとられませんでした。売上が鈍化していても、工場予算の達成圧力もあり、「いま減産すると工場予算も達成せず、一台あたりの原価が上がるので受け入れられない」といった工場都合で生産が継続されました。 では、日本には優れたJIT(ジャストインタイム)の仕組みがあったではなきかという反論もありそうです。しかし、JITが出来上がっているのは、工場とサプライヤー間が主で、実は流通側とのJIT連携はできていなかったのです。工場から上流のサプライチェーンがいくら連携しても、下流の販売側の情報がいい加減で、連携もきちんとしていなければ、どうしようもありません。多くの製造業の視野は、精々工場と工場倉庫どまり、そこから先は工場管理外の在庫となり、視野から消えてしまうのです。 結局、需要の状況をすばやく捉え、供給対応していくと言うSCMはできていなかったのです。つまり。SCMで言うところの、「必要なモノを、必要な時に、必要なところに、必要な量だけ届けるための、最終顧客からサプライヤーまでの業務の仕組み」はうまく動いていなかったのです。  リーマンショックを教訓に、今まさに多くの製造業では、最終顧客に近いサプライチェーンの下流から営業在庫、工場、サプライヤーまでをつないだSCMの再構築がはじまろうとしています。単に工場の効率化だけでは不十分だということに気がついたメーカーでは、今まさにSCMのやり直しが始められています。製造業はモノを作って終わりではありません。「必要なモノを、必要な時に、必要なところに、必要な量だけ届けるための、最終顧客からサプライヤーまでの業務の仕組み」の構築があらためて求められているのです。今度は、きちんと業務設計をし、組織ごとの役割と権限を明確化し、借り物ではない、業務に適したSCMシステムを地道に導入していくことが必要になっているのです。