株式会社サステナビリティ・コンサルティング
                                              代表取締役 石川 和幸

1.生産計画、MRP、製造指図の関係  -ステップごとの制約条件には注意が必要-     ◆MRPと製造指図とは 生産計画の概念は広く、生産をするための計画というとらえ方がありますが、MRPはこの生産計画にも含まれます。 ただし、SCMでの議論においては、生産計画とMRP(資材所要量計算)の考え方はきちんと定義すべきです。通常、生産計画の定義は多岐にわたるので、ここでは最終製品の完成計画を生産計画と呼びましょう。 MRPとは、Material Requirement Planningの略です。対象は最終製品の需要に紐づいた「独立」需要品目と、最終製品を作るために必要な部品や材料となる「従属」需要品目に分かれます。独立需要品目はたとえば、テレビ、自動車などの出荷可能な形の品目です。従属需要品目は、テレビを作るための液晶パネルやフレーム、自動車を作るためのエンジンやシート、ハンドルなどの各種部品です。 MRPでは、生産計画で完成が必要な数量を独立需要品目の数量とし、その数量から、従属需要品目を展開計算します。たとえば、1台の自動車であれば、エンジンは1、シートは4、ハンドルは1必要だと展開するのです。このように必要な従属需要品目(資材)数を計算するので、「資材所要量計算」と呼ばれます。 独立需要品目の完成指示とMRPで展開された従属需要品目の製造指示が製造指図になります。◆単に数量を計算するだけでは足りない MRPで、従属部品の所要量を計算し、製造指図も発行されますが、実際は、必要な数をそのまま作れるわけではありません。生産できるだけの設備の空きや作業者など、十分な能力があるか、従属需要品目を生産するだけの調達部品や材料の数量は十分かを検証します。 ステップで描くと、生産計画は、独立需要品目の完成計画の立案、MRPによる従属需要品目の展開、各種制約条件のチェック、製造指図の発行とつながっていきます。各種制約条件のチェックのタイミングに合わせて、時間単位の製造順序計画を立案する小日程計画(本章4項を参照)を立案して、制約チェックを同時に行うこともあります。 単純に生産計画を立案するといっても、こうしたステップがあるのです。したがって、SCMを構築するときの議論で、生産計画という言葉が出てきた際には、どの範囲の業務を指しているかを確認する必要があります。世界標準の定義があるのではなく、会社によって、各社各様の定義や認識があるからです。 もっと言ってしまえば、担当者ごとに指している内容がちがうことさえあります。生産計画、MRP、製造指図のそれぞれ鍵となる言葉を使って、議論できるようにしておきましょう。2.制約条件を踏まえた生産計画  -品目・設備・拠点の「特性」への配慮が欠かせない-◆生産計画のバラエティを生み出す「特性」とは 生産計画は、生産する数量に制約条件を加えて立案するものです。 しかし、この制約条件は、単に生産するための設備の能力や調達部材の数量だけではなく、もっとたくさんあります。品目の特性や設備の特性、拠点の配置特性などです。 たとえば、品目の特性が制約条件になるものとしては、医薬品が挙げられます。医薬品は品質に関する法的な取決めが厳しく、同じ原料でも、作ったタイミングがちがう原料を混合して製品を作ってはいけないとされています。そうすると、100個ほしくても50個分の原料しかない場合、まず50個を作り、次の原料が仕上がった時点で別に50個作ることになります。 設備の特性について言うと、炉があります。炉は一度にいろいろな品種を投入できるため、同じ設備の能力を同時に使えます。 大型設備は、作る品種を切り替えるときに、付帯設備を変えたり、洗ったりする段取りに長時間かかる一方で、人手による組み立ての場合は、品種切り替えがすぐできるなどの特性があるのです。印刷や粉体の生産がある場合は、こうした段取りが大変なので、一度にまとめて生産します。 こうした特性による制約条件を踏まえて、適切な生産計画を立てます。◆完全なプル型生産ができない理由 全生産計画をプル型にして、「必要なときに、必要な量だけ作るための」システムを入れた会社も多くあります。しかし、設備能力が無限大にあって、いつでも好きなときに、好きなものを作れるのであればよいでしょうが、現実はちがいます。 こまめに品種を切り替えて、1日のほとんどが段取りになって、まったく生産量を充たせなくなってはSCMの意味がなくなります。巨大な設備を無尽蔵には持てないため、いかに効率的に生産に活かしていくかを考えなければなりません。 そもそも生産には時間がかかり、能力にも限りがある中で、多種多様な品目生産をしようとすると、どこかで先行生産した在庫を置いておくバッファ(緩衝点)となるポイントが必要になります。 これが医薬品であれば、中間体としての製剤バルク、もしくは充填・包装前の在庫だったり、コピー機のインクであれば、ボトル詰め前の粉体バルクだったり、機器であれば半製品だったりするのです。つまり、これらが最終製品の需要情報(受注など)によって、生産がはじめられる前の事前在庫ポイント(バッファ在庫ポイント)であるデカップリング・ポイントになるのです。 デカップリング・ポイントは、戦略的にも決められますが、制約条件に対応するためのバッファとして決められることもあります。デカップリング・ポイントまでは予測や計画主導で生産され、在庫計上されるのです。3.特性に合ったMRP、製造指図が必要 -制約条件に注意してマネジメント層が判断する-◆MRPの回し方、製造指図の出し方のルール化 全工程をプル型で計画せず、制約条件を考慮したバッファまでは計画主導で事前準備しておくことが肝要です。 この場合、MRPの回し方や製造指図のきり方も、受注に基づく業務のときとおのずとちがいが出てきます。 先行生産する工程に対しては、先の期間の生産計画に基づいて長い期間のMRPを回します。このとき、最終工程の必要数量はあくまでシュミレーション上の数量です。一方、従属需要品のなかで事前にバッファ在庫として先行生産すべき品目は、先の期間の計画に基づくMRP計算後、必要な数量を製造指図として発行します。 前項の製薬業の例で説明しましたが、製剤バルクは1回で生産しなければならず、しかも、混ぜ合わせてはいけないという制約があります。そして、タンクでまとめて作るため、製剤バルクの製造指図は先行で発行し、先行で生産します。 このバルクが、最終製品の生産必要数量を充たせない場合、まず先行ロットナンバー分を使い、足りない分で別のロットナンバーを付けて新しいバルクを作って使います。最終製品の製造指図もバルクのロットナンバーを引き継いで分割しなければなりません。特性により、MRPや製造指図もこうした複雑な業務になり得るのです。◆先行生産はマネジメント層が判断 製造指図を発行するということは、実際にモノができてしまうということで、財務的な影響が出てきます。また、生産に使った部品や原材料、倉庫保管料、給料の支払いなどの費用も発生してきます。 受注や最終組み立てに紐づいた生産であれば、会社として組織間の合意のもとで正式に製造指図が出るでしょう。しかし、先行で製造指図を発行する場合、その元情報は先の期間の計画情報であり、実際の引取りが保障されるものではありません。 問題は、もし、先行で生産して仕掛在庫となったモノが使われずに余った場合、また、使われずに長く滞留した場合、その期間資金が在庫になって寝てしまうことに対する責任は誰がとるのかということです。 このようなことが判断できるのは、やはり生産管理部長や工場長などのマネジメント層です。先行生産の指図の承認を必ずマネジメント層が行い、一担当者の判断で先行生産を指示するような形態では、後々問題になります。 同じ会社の中の販売と工場の関係であれば、余った仕掛在庫もなんとか処理できるでしょう。しかし、工場が別会社だった場合は大変です。この場合、生産の制約は、他社に生産委託していることであり、他社の生産ラインを間借りするので、それに合ったマネジメント体制を構築することが必要になるのです。4.小日程計画の位置づけ -実際に"製造できる"計画を立てることが必要-◆小日程計画とは MRPによって製造指図が出ます。しかし、製造指図だけで全製品の生産が可能かというと、そうではありません。製造指図には、必要な生産数量と完成納期が書かれていても、設備やラインの負荷状況を考えていないのです。 実際に同じ設備やラインを使って多くの品目が作られるので、製造指図が立て込むと、設備やラインの取り合いが起こります。また、いくつかの品目がある順番で生産することになるのですが、このとき、設備やラインは付帯設備を取り替えたり、洗浄したりする"段取り作業"が発生します。効率的に設備が使えるように生産順序を考えて、段取り時間の少ない計画を立てる必要が出てきます。 こうして、限りある能力を最大限に活かし、納期に間に合わせるために立案する生産順序計画を"小日程計画"といいます。◆段取りも時間を消費する 小日程計画は、時間単位です。1日の中の稼働時間が能力の上限になり、その時間の中で生産できる数量がその能力を消費することになります。このときの時間の消費を計算するためには、生産品目を1つ作るのにどれくらいの時間がかかるのかという、生産の標準時間を求める必要があります。 たとえば、1台組み立てるのに10分かかる品目Aは、10台作ると100分設備を占有し、能力を消費することになります。1日480分(8時間)稼働の場合、残り能力380分となります。Aを10台作った後、Bを10台作り、Bも同様に1台10分かかるとします。そうすると同じように100分消費します。380分から100分引いてあと280分残っていますが、実際はそんなには残りません。品目Aから品目Bに切り替えるときに、段取り時間がかかるからです。設備についている治具・工具や金型など取り替えるだけで40分かかるとすると、稼働時間は240分となります。ここまでで4時間が消化され、1日の半分が終わったことになるのです。◆納期を守り、効率を最大化するような小日程計画が理想 小日程計画は、納期を守るように組まなければなりません。稼働時間中、設備や人が遊ばないように最大限能力を使い切るような計画が立案できれば理想です。単なる順序計画による段取り最小化だけでなく、まとめ生産をする、代替可能設備をうまく使うなどの方法でなんとか計画を立てます。 実際は、会社ごとに複雑な制約があります。治具・工具や金型など特定の付帯設備の取り合いになって、ラインはあいているのに作れなかったりします。また、特定の熟練工しか生産できない品目では、熟練工の人数が制約条件です。さまざまな制約条件まで勘案することが必要です。5.工場の在庫はステータス管理を -計画の精緻化だけでは処理できない問題がある-◆まず、在庫をきちんと認識する MRPや小日程計画のシステム化が進み、高度な生産管理のマネジメントスシテムができあがったとしても、計画自体が足元から崩れる場合があります。在庫の認識の問題で、計画立案の前提条件が狂うことがあるのです。 在庫の認識とは、まず、きちんと在庫の現品管理がされているかどうかということです。たとえば、システムでは在庫があるものとして、生産の必要がないと判断したにもかかわらず、実際はその在庫は何らかの理由で存在しない、もしくは出荷することができない場合があるのです。そうすると、実は生産して出荷すべきだったところを、そうでない計画を立ててしまいます。 逆のパターンとしては、実物の在庫があるにもかかわらず、利用可能な在庫として認識されず、システムにも利用可能在庫として登録されていないと、計画上その在庫は存在しないものとして扱われてしまいます。そうすると、本来必要でない生産計画や調達計画が立ってしまい、在庫が増えてしまうことがあるのです。 じつは、こうした在庫の管理レベルの低さが問題になることがよくあります。莫大な金額でSCMシステムを導入したにもかかわらず、システムで認識される利用可能在庫と実施に利用できる在庫の数量に差異があると、せっかくの計画も使えないものになってしまい、その後時間をかけて人間が計画を手直ししていくという状況も生みかねません。 利用可能な在庫(出荷可能な在庫、生産ラインへ投入可能な在庫)をきちんと認識し、計画に反映しないと、計画そのものが成り立たなくなるのです。◆利用可能在庫はどれか、きちんと定義する いまでもまだ多くの会社では、在庫を把握するときに会計システムから認識するのではないでしょうか。通常、経理的に把握する在庫が、会社として認められた在庫であることが多いからです。そうすると、せいぜい月に1回締めることができるだけで、その間は在庫の入出庫で受け払い計算した仮の在庫になり、毎週、毎日、在庫をタイムリーに把握することができなくなります。計画に使う在庫をあわせるために、計画担当者があちこち調べて回るのが日常化していることでしょう。 経理的な在庫とは別に、倉庫や製造現場では倉庫システムや製造実行システムで在庫が管理されているのが通常です。計画で使う在庫はこちらの在庫のほうが精度が高く、タイムリーに把握できます。 とはいえ、もっとも大切なのは利用可能在庫の定義です。品質の低いものをBランクとしたり、検査待ち出荷止めがあったり、利用できない在庫もあります。利用可能在庫をきちんと定義しないと混乱します。6.現場改善と在庫把握の関係 -現品と同様に未来の在庫までを管理する-◆在庫の把握が正確であること 利用可能在庫についていくら定義と把握がきちんとされても、在庫そのものが管理されている現場の管理レベルが低いと、情報発生の源流から前提が崩れてしまいます。 したがって、製造や倉庫での現品管理と入出庫管理が重要になります。在庫が出庫されたら即、出庫が記録され、入庫されたら即、入庫が記録される。出荷されたら即、出荷が記録される。在庫管理場所に在庫が入荷されたら、即、入庫の処理を行い、入庫が記録される。入出庫が確実に管理され、かつ出荷時、入荷時にもすぐに処理されることが理想です。 特に入庫処理が重要です。入庫されないと、利用可能在庫に計上されないため、モノはあるのに、使えない、あるいはシステム上、情報として把握できないことになるため、計画に支障をきたすのです。一方、出庫のほうは通常、引当て処理後に出庫指示がかかるので、引当てさえきちんと行われていれば、計画上の利用可能在庫ではなくなるので大丈夫です。 ただし、この場合は引当て管理をきちんとしなければなりません。これができていないと、すでに引当てて出荷先が決まっているのに、まだ誰でも利用できると思ってしまうからです。◆工程管理、進捗管理がしっかりしていること 在庫が目に見える形で動いており、あとは入出庫処理をすればいい場合は、現品管理の世界なのでわかりやすいと思います。しかし、計画上、在庫管理は現品だけではなく、入庫予定という未来の在庫の管理もきちんとしなければなりません。 計画を立てるということは、たとえば、来週入庫される予定の在庫を元に、再来週に必要になる在庫を計算し、生産依頼したり調達計画を立てたりするわけです。そうすると、単にいまある在庫の管理精度が高いだけでは不十分で、未来の在庫である入庫予定の管理精度も高くなければ、計画が無意味になってしまうのです。 たとえば、来週100個生産されて入庫するので、再来週は生産しない計画を立てたとします。ところが、今週の製造進捗が遅れていたのがあとで発覚し、入庫予定日になって入庫されない場合、大問題になります。入庫されるという前提での計画そのものが狂いだすのです。 したがって、約束したものは約束どおり生産されて入庫されることが必要で、そのためには、製造現場の工程がきちんと管理され、進捗管理がされることが重要なのです。◆管理レベルを上げるなら"5S"を見直す 在庫管理、工程管理、進捗管理をきちんと行うためには、やはり、基本となる5S(整理、整頓、清潔、清掃、躾)が大切です。5Sがしっかりしていてこそ、管理レベルの話ができるのです。SCMについての詳しい情報はこちらの本をご参考下さい。「図解SCMのすべてがわかる本」 石川 和幸著URL: http://susco.jp/