2000年前後から日本の製造業各社は全体最適を目的としたサプライチェーンプロセス改革活動に精力的に取り組んできた。その施策として先進的なSupply Chain Planning(以下SCP)ツールを導入し業務プロセスの標準化を推進した。またその仕組みが円滑に機能するよう需要予測精度の向上やリードタイム短縮など様々な現場改善を継続的に行ってきた。
しかし、あらためて振り返ってみて、上記ツールの導入が期待通りの経営効率向上に役立ったと言い切れるのであろうか。SCMの推進により20~30%の在庫削減を達成し、同時に納期遵守率も向上した大手企業がある事は確かである。しかし、それらを可能ならしめた最大の要因は、ツールというよりも、販売から生産・調達といったサプライチェーンプロセスに携わる業務担当者間の経験と勘による擦り合わせが進んだことではないだろうか。
このような実績を鑑み、今後SCMの仕組みを再構築していくためのポイントは3つあると考える。1つ目は、市場あるいは生産状況などサプライチェーン上の変化情報を仕組みに反映するスピードを更に向上することである。これまで多くの会社は、月次から週次へと需給調整サイクルを短縮すべくワークフローを規定し直し実行して来た。しかし、顧客は週次サイクルなど意識せずに要求を出して来る。そこで、このギャップを吸収し請納期に合わせて出荷するための社内外調整が必要となる。現状では、この役割を担当者個々の自主的努力(犠牲とまでは言わないが)に頼っていると言わざるを得ない。より早く、高精度でより良い需給調整を実現するためには、ワークフローに依存せず、随時情報を更新できる業務プロセスおよびシステム環境が重要である。2つ目のポイントは、状況の変化が経営に与えるインパクトおよびそれにどのように対処すべきかを、迅速に判断するための基準と情報基盤である。例えば、複数の対処方法をシミュレーションし、経営リスクを最小化するものを素早く選択するといった業務をサポートする仕掛けが必要である。3つ目のポイントは、上記2つの要件を満たす仕組みがユーザーフレンドリーであることである。これまでのSCPツールは、最適解を導き出すため複雑なマスター設定、JOB運用、パラメータ設定などを要求し、ユーザーの意思をフレキシブルに反映できるとは言い難いものが多かった。ツールはあくまでも人間系の調整業務をサポートすることに主眼をおくべきである。
これらのポイントが満たされれば、随時行われる需給調整の状況や判断内容を販売から調達まで同時に共有することが可能となる。そして、それらの判断に基づいて担当者個々が取る自主的行動が自然に連動するといった、本質的な全体最適のためのPDCAの実現に繋がっていくであろう。
寄稿者:
株式会社NTTデータビジネスコンサルティング
第2ビジネスソリューション
SCM P&Pグループ
マネジャー
米本昌史